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★日経ビジネス★トヨタ自動車の4分の1の売上げで販売台数は同数のヒュンダイ脅威のメカニズム

○快走する現代自動車~トヨタ最大のライバルに浮上

韓国の現代(HYUNDAI)自動車が世界中の市場を快走している。傘下の起亜(KIA)自動車を含めたグループの総販売台数は、2000年には世界11位の253万台だったものが、2011年は650万台を超え世界5位以内となる見込みだ。トヨタ自動車との差はわずか80~90万台でしかない。中国、インドなどの新興国市場に加え、欧米でも販売を伸ばしている。現代自動車グループのクルマの品質は高く、デザインも洗練されている。仕様を、地域のニーズに合わせるなど製品戦略は柔軟だ。同社が短期間に急成長した背景には、ウォン安の追い風とともに、緻密なグローバル戦略があった。

○赤字のトヨタを横目に業績は好調

現代自動車グループの業績は、世界景気が停滞するなかでも好調だ。2011年7~9月期の連結業績を見ると、現代自動車の売上高は前年同期比14.5%増の18兆9540億ウォン(1兆3000億円)、営業利益は18.9%増の1兆9948億ウォン(1370億円)。起亜自動車の売上高は14.9%増の9兆9900億ウォン(6850億円)、営業利益は21.9%増の8276億ウォン(567億円)を記録した。

一方、トヨタ自動車の同じ期間の営業利益は、黒字化こそしたものの、前年同期比32.4%減だった。東日本大震災の影響が直撃した4~6月期を加えた上半期累計(2011年4~9月)で見ると、売上高は前年同期比17.2%減の8兆159億円、営業利益は325億円の赤字となった。タイの洪水被害の影響が出る10~12月期は再び厳しい業績が予想される。

現代自動車の2011年1~11月累計の世界販売台数は367万9006台。通年目標の400万台を達成するのは確実だ。起亜自動車の250万台(見込み)を加えたグループの総販売台数は、650万台を超えるものと予想される。一方のトヨタ自動車は2011年度の総販売台数の見通しを、前年度比1%増の738万台に下方修正した。その差は年間100万台に満たない。

こうした状況を、「為替や災害の影響による一時的なもの」とする見方もある。しかし、現代自動車グループの実力を侮ってはならない。

2011年の世界自動車販売台数を6500万台とすると、現代自動車グループのシェアは10%に達する。前年にフォードを抜いて世界自動車メーカー5位に浮上した地位は盤石になった。2020年までにシェアを15%まで引き上げ、トヨタやフォルクスワーゲンと並ぶトップ3、さらには首位をも狙うシナリオが現実味を帯びてきた。

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○欧米市場で快進撃を続ける

2011年は主戦場の米国で大きな成果を収めた。2011年1~11月までの販売台数は、現代自動車が前年同期比20.6%増の59万4926台、起亜自動車が35.7%増の44万2102台、グループ合計で103万7028台となった。12月の実績を公表する前に、1986年に米国に進出して以来、悲願の年間100万台を突破した。

車種別に見ると、現代自動車の中小型セダンの「ソナタ」や「エラントラ」、起亜自動車の「ソレント」や「ソウル」が売れている。現代自動車が打ち出しているデザイン哲学「Fluidic Sculpture」のシャープなデザインが好評だ。現代自動車グループは、日系メーカーが得意とする中小型セダン市場に立ちはだかる。

現代自動車が米国で仕掛けたのは、卓越したマーケティングである。「10年間に10万マイルまで品質保証」や「ガソリン価格の上昇分負担」などのキャンペーンが話題を呼んだ。特に2008年末から始めた現代アシュアランス・プログラムは、リーマンショックを背景に予想外に多くの消費者が支持した。「失業したら、ローンで購入した自動車をコストなしで返却できる」というものだ。

○中国やインドなど新興国市場で強みを発揮

もともと後発メーカーである現代自動車は、新興国市場で強みを発揮してきた。近年、富裕層のみならず、中間層も取り込んで、急速に販売を伸ばしている。

世界最大の自動車市場となった中国では、2011年、現代自動車グループのシェアは10%に達する見通しだ。8月の現代自動車のシェアは6.9%、起亜自動車は3.9%で、両社を合わせると10.8%のシェアとなった。戦略車として発売した小型車「K2(韓国名プライド)」や「ベルナ(韓国名アクセント)」「ソナタ」「K5」などの新車が貢献し、月間販売台数の自社の記録を塗り替えた。

現代自動車グループはGMに1.5ポイント差で3位につけている。トップは「中国市場における自動車販売台数は最重要」として投資を続けてきたフォルクスワーゲンでシェアは18.6%。GMが11.2%で続いている。現代自動車グループとGMはシェア2位の座をめぐり、年末まで熾烈な競争が繰り広げる。この世界最大の市場で日系メーカーは現代の後塵を拝している。

中国に次ぐ人口を擁し、戦略市場として注目されているインド。この市場でシェア半分を占める圧倒的トップは、マルチ・スズキだ。そのなかで現代自動車グループは、2008年に現地系のタタ・モーターズを抜いて2位の座に就いた。2011年上半期の販売は前年同期比7.3%増の18万8000台だった。

インドに参入したのはトヨタと同時期の1996年。コンパクトカーの「サントロ」を1998年に売り出した。2007年には、その後継として低価格の「i10」を投入してヒットさせた。その際、製品開発は徹底した現地化を図った。高温多湿な気候や劣悪な道路事情を考慮し、エンジンの冷却機能やブレーキ機能を強化した。ターバンを着用する人のために車高を若干高くした。スピードよりも燃費を気にする消費者が多いことから燃費性能を向上させた。2008年には外資系自動車メーカーとして初めて、インドに研究開発拠点を設置した。

インドでの成功の要因は人事戦略も大きい。現地法人の社長にインド政府の元高官を迎え、大幅に権限を委譲した。これにより、人脈を生かしたきめの細かいマーケティングが可能となった。また現地政府との交渉が円滑になった。労使問題は複雑だが、大きな紛争もなくビジネスを順調に運営している。

その他のBRICs市場でも、現代自動車グループの活躍は注目できる。ロシアでは、2011年11月の販売台数が1万7283台となり、海外メーカーでトップを維持した。起亜自動車の販売台数は1万5115台で2位に着けている。また世界第4位の自動車市場となったブラジルでは、2014年のサッカーのワールドカップを控え、現代自動車、起亜自動車ともに、国際サッカー連盟(FIFA)の公式スポンサーとなった。ブラジル市場を重点的に攻略する姿勢を鮮明にしている。

○各国のブランド評価でトップを獲得

現代自動車グループが世界中で快進撃している様子は、各国のブランド調査の結果に顕著に表れている。米自動車専門メディア「トゥルーカードットコム」が2011年11月に発表したブランド評価調査によると、現代自動車と起亜自動車は初めて「Aプラス」のトップ評価を得た。ホンダやスバルの「A」評価を抑えてのトップ獲得だ。同調査は、市場シェア、価格安定度、顧客ロイヤリティ、在庫期間など8項目について、総合的に評価し、毎月、企業別の順位を発表している。

クルマそのものの評価も高い。2009年に現代自動車の「ジェネシス」が、米国で最も権威のある「北米カーオブザイヤー」を獲得した。北米市場で発売された新車の中から最高のモデルを表彰する賞を、韓国メーカーが初めて獲得した。このことを、マスメディアは驚きをもって報じた。

かつて、米国ユーザーは現代自動車のクルマを粗悪車と評価し、乗っているのはカッコ悪いことと言い放った。だが今や、品質を評価するとともに、そのデザインをクールと見ている。現代自動車の中古車の価格は総じて高い。新車の販売奨励金は、一部の車種ではトヨタやホンダを下回っている。日本車よりも安い価格で売っていたのは過去の話で、少ない値引きでも売れているのである。

新興国でも現代自動車グループのブランドに対する評価は高い。米調査会社JDパワーが実施した「2011年中国市場における自動車の商品性評価」では、小型車部門で、現代自動車の「ベルナ」がトップになった。現代自動車は2010年8月に、「ベルナ」を中国で本格的に発売した。中国のユーザーは、中国の消費者の嗜好を反映した現代的なデザインと燃費性能などを評価している。2011年10月までの累計販売台数は11万684台を記録した。

また「中東カーオブザイヤー」でも、現代自動車グループの4車種が2011年の1位に輝いた。同賞は、最近1年間に中東地域の5カ国以上で販売された自動車を21部門で評価するもの。今年は現代自動車の「エラントラ」(韓国名アバンテ)が準中型部門で、「アクセント」が小型車部門でトップを獲得。起亜自動車からは「オプティマ」が中型車部門で、「スポーテージ」が小型スポーツタイプ多目的車(SUV)部門でトップとなった。現代自動車は2011年1~10月までに中東17カ国で前年同期比6%増の24万1000台、起亜自動車は同3%増の15万1500台を販売した

こうしたブランド評価を高めるために、広告も積極的に打っている。2010年の広告費は、現代自動車が前年比42%増の12億6000万ドル(約980億円)、起亜自動車が同48%増の7億7570万ドルを支出した。世界の自動車メーカーの広告費は、トップがGM(35億9000万ドル)、2位がトヨタ(28億6000万ドル)、3位がフォルクスワーゲン(22億4000万ドル)だ。現代自動車グループはそれに次ぐ広告費を投じている。その伸び率は業界でも群を抜いて高い。

続々と立ち上がる海外工場

現代自動車の国内の主力工場は蔚山(ウルサン)工場。150万坪の敷地に5つの独立した工場設備を配している。4万2000トン級の自動車運搬船3隻が同時に接岸できる専用埠頭まで備えている。ここには3万4000人の従業員が勤務する。生産能力は年間170万台で、単一工場として世界最大の生産規模を誇る。また牙山(アサン)には、中大型乗用車を年間30万台規模で生産する総合工場がある。

起亜自動車の国内の主力工場は華城(ファソン)工場。年間58万台の生産能力がある。そのほか、所下里(ソハリ)工場は35万台、光州工場は42万台の生産能力を備える。こうした国内工場は拡張余地が乏しいため、増産の主力は海外である。

現代自動車グループは、現地の嗜好に密着した製品開発と為替リスクの軽減、そして世界最適生産――コスト、リードタイム、ロジスティックス、貿易摩擦など様々な面で――を目指して、海外工場の新増設を加速している。海外生産比率は、リーマンショック前の2007年には28.9%だったものが、2010年には45.5%にまで高まっている。現代自動車グループの韓国国内の生産能力は現在350万台。これに対して海外の生産能力は、現在の300万台強から2012年末までに400万台強へ拡大する。

現在、現代自動車は6カ国、起亜自動車は3カ国で海外生産を行っている。2012年には現代自動車がブラジル工場を立ち上げる。新興国の生産拠点は、現地消費に対応するほか、海外向けの輸出拠点としても重要である。インドの場合、小型車の輸出拠点となる。生産台数の約半分を、西欧、アフリカ、中南米に輸出している。

こうした現地生産が進んでいるため、EUや米国とのFTA(自由貿易協定)は効果がないとの指摘がある。しかし、需要の多い車種は現地生産、需要は少ないが利益率が高い車種は輸出、という柔軟な供給体制を取ることが可能になる。また欧米で操業する工場へ、自動車部品を韓国から輸出する時の調達コスト削減も、効果が大きい。

○創業者の果敢な戦略で日本企業の最大のライバルに

現代自動車の強さの源泉は、鄭夢九(チョン・モング)会長の強力なリーダーシップにある。グローバル市場を見据えて、早くから新興国の自動車市場を開拓してきた。クルマの品質、技術力、デザインも先頭に立って急速に向上させた。米国の自動車専門誌「オートモーティブニュース」はこれらの点を評価し、同氏を、アジア自動車業界における最高のCEOとして、2年連続――2010年、2011年――で選出した。

本業の自動車事業に加え、積極的に多角化も推進している。2000年代の半ばに、鉄鋼事業への参入を表明。2010年、2011年と相次いで高炉を稼働させた。第3の高炉も計画しており、鉄鋼材から完成車までの一貫生産体制を強化する。そして2011年4月、旧現代財閥の発祥企業とも言える現代建設を買収した。

現代自動車グループは快進撃を続ける一方で、課題も数多く抱えている。韓国市場ではシェア80%を占めるものの、韓国市場自体が停滞している。低賃金を強いる下請け構造はメディアから批判にさらされている。さらに、電気自動車への取り組みの遅れ、現代建設をはじめとする多角化事業の収益向上、そして経営トップの世襲を含むガバナンスとコンプライアンスである。

現代自動車は、2010年9月に創立10周年を迎えた。2000年に旧現代財閥から独立して以来、10年間で売上高は5倍、純利益は7倍に成長した。かつて三菱自動車の技術を導入していた同社は、気がつけば日系メーカーの最大のライバルになった。新成長戦略で一本足構造と例えられた日本の自動車産業、その中で最強と言われたトヨタ自動車は、そのポジションを死守できるか。リスクを恐れず果敢に攻めるグローバル戦略の巧拙が問われている。

ソース 日経ビジネス 2012年1月22日

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